画像表現研究 学習指導書
造形専門科目(デザイン情報学科) 教職履修者:マルチメディア表現及び技術
画像表現研究 3単位(通信授業1単位、面接授業2単位)
デザイン情報学科システムデザインコース必修科目(4年次)


科目の学び方
この科目では、3年次までに履修した各科目での学習内容を踏まえ、情報環境の発達が顕著な現在における画像表現の特質、重要性、将来性について調査・制作・検証を通して実践的に研究することを目的とする。

ここでは「画像表現」を<「画像」を用いた人間と人間、または人間と機械におけるコミュニケーション>と捉え、単なる表現技術や関連知識の習得にとどまらずに、人間のコミュニケーションの問題として広く「画像表現」を捉え、今後の可能性を明らかにしていきたい。

まず、広い見地から「画像」の定義に対し十分に考察を深めると同時に、それら「画像」による表現が人間の知覚や認知、そして理解に対しどのような影響を与えているか、知覚の中で視覚の果たす役割や性質、人間の意味解釈のプロセスなどにも言及しながら、「画像表現」の現状と問題点を把握することからはじめる。

私たちの生活全般において、デジタル技術に媒介された様々な情報メディアが浸透している現状は、幾度となく取りあげられ語られている。しかし、コミュニケーションの問題として捉えた「画像表現」という切り口をもって生活環境全体を見直した場合、果たしてどのようなものが見えてくるだろうか。通信授業では、このような問題提起を前提とした課題研究を行う。

一方、面接授業では実証的な画像表現を通して課題研究を行いたい。現在では、従来の紙メディアなどに代表される、情報が固定されたスタティック(静的)な画像表現を越え、メディアやテクノロジーの発達により、ユーザ(情報受信者)の様々シーン(状況)に合わせたダイナミック(動的)な表現が可能になった。同時に複雑さを増す情報環境の中で、様々なユーザの立場に適した情報提示としての画像表現が必要とされている。

従来の「マスメディア」と呼ばれるテレビや新聞・雑誌は、情報を広く多くの人に伝える目的(ブロードキャスト)を達成した一方で、情報受信者としての個人は、テレビの番組構成や雑誌の発売日などマスメディアの都合に、自分のライフスタイルを合わせなければならなかった。

しかし、インターネットの普及によるwebなどに代表される新しいメディアは、そんな制限から個人を解放した。例えば、新聞や雑誌の発売日を待たずとも、最新のニュースや記事(気になるスポーツの試合結果やリアルタイムの株式相場など)が確認できるし、預金の残高照会や振り込みをしたい時、乗り物の予約をしたい時、実際に銀行や駅や旅行会社まで出向く必要がなくなった。また、このような情報の供給側は、全ての人々に広く(ブロードキャスト)という戦略よりも、ユーザの状況や要求を把握しそれに応じて、より詳しい細かな情報を供給する(ナローキャスト)という状況に変化している。

このようなメディアの状況を背景にした「画像表現」にはどのようなものが求められるのか。ここでいう「画像表現」とは、リアルタイムに刻々と変化する情報を、ユーザの要求に対し、適切に構造化・可視化し提示することと捉えられる。

このような前提のもと、面接授業では「webアプリケーション」を題材に取りあげる。現在みなさんが閲覧しているwebページは、大きく2つに分けられる。ひとつはhtmlだけでページを構成するスタティックなページであり、もうひとつはCGI、PHP、ASP、JSPなどのプログラムを利用し、DB(データベース)と連動して動的にhtmlを生成するページである。これらの動的にhtmlページを生成するプログラムのことを「webアプリケーション」という。

webアプリケーションで構築されているもっとも代表的なサイトとして、書籍販売その他さまざまなショッピングサイトがある。そこでは例えば、自分の欲しい本の情報を入力すれば、その検索結果を示す画面が表示される。本のタイトルが明確にわからなくても、そのキーワードを入力すれば、それに付随する書籍一覧が表示されるだろう。そこで表示されているhtmlページは、あらかじめ用意されていたhtmlではなく、入力されたキーワードの検索結果のページがその場で生成され表示されていることに気付くはずである。同じデータベースに蓄積された情報でも、その利用者の要求は様々であることに注意しなければない。それら異なる要求に合わせて適切な情報を構造化・可視化した、ユーザにとって利用価値の高い表現が必要とされる。

ここでは、このような「webアプリケーション」のシステムを計画し、その中の「画像表現」を中心に実制作を行う。題材はショッピングサイトなどに限らず、各自の問題提示とそれに関するディスカッションのなかから、さまざまなユーザの要求に対し、適切な情報の可視化表現が必要とされる状況を設定する。同時にネットワークやプログラミング、データベースの知識が必要とされるが、どれも今学年で履修する授業、または今まで履修した授業の中で解説されてきた要素の実践例であることを再確認してほしい。それら各授業で得た知識を統合化する意味でも、「webアプリケーション」を題材に取り上げている。

通信授業、面接授業を通してこの授業全体で意図しているのは、「画像」を介した人間のコミュニケーションを考える、ということであることを最後に強調しておく。


教科書
『ディジタルイメージクリエーション』(ディジタルイメージクリエーション編集委員会 財団法人画像情報教育振興協会 2001)


課題一覧
「画像表現研究」は、通信授業1単位、面接授業2単位からなる科目である。この学習指導書では通信授業課題の詳細が記述されている。全ての課題内容は以下の通り。

画像表現研究
[通信授業] 課題 画像表現の調査分析とリ・デザイン提案
[面接授業] 課題 webアプリケーションにおける画像表現の研究


画像表現研究 通信授業課題
画像表現の調査分析とリ・デザイン提案


出題
・身のまわりの画像表現5事例の実地調査・分析・考察を行い、調査報告レポートを作成しなさい。
・調査結果から事例をひとつ選択し、その問題点を補うようなリ・デザイン(Re-design:改善)の方針・企画をまとめ、新たな画像表現の提案としてまとめなさい。


制作の条件
・調査報告レポートは紙媒体としてまとめ、リ・デザイン提案はwebページとしてまとめる。

調査報告レポート
・1事例につき、3〜4枚の写真と分析項目に関する記述の構成とする。

・1事例につきA3用紙1枚分(A4 であれば2枚分)のボリュームでまとめること。

・以下の項目において調査・分析・考察を行い、記述すること。この他にも各自の必要性によって項目を追加して構わない。

[画像表現の種類]web、新聞、テレビ、映画、マンガ、週刊誌、吊り広告、駅のポスター、路線案内図、ビデオ、DVD、携帯電話、金融機関のATM、自動販売機など、その画像表現の具体的な種別。

[表現の目的]その画像表現がどのような人に、どのように、どのようなメッセージを発しているか?

[表現が機能する場所性]その画像表現が存在している場所の特性、人の特性、地域の特性、時間の特性

[表現の仕様]その画像表現には、どのような技術、手法、工夫が用いられているか?

[表現の達成度]その画像表現は、受け手に対しどのように機能しているのか?実際にその表現に日常触れている何人かのインタビューがあることが望ましい。

[表現の問題点]上記様々な観点からその画像表現を考察した場合に浮かび上がる問題点の整理。

・分析・考察の着目点に関しては、教科書p203〜p204:記号とその基本的性質も参考にすること。

リ・デザイン提案
・調査報告レポートで選択した5事例のなかから、ひとつ事例を選択しそこで見いだされた問題点を修正・改善するための提案を行う。

・選択した1事例の改善前の状態と、そのどういう問題点を、どのように修正・改善を行い新たな提案としたかのプロセスを図やスケッチなどを多用してわかりやすく表現すること。

・web上の表現に関しては特に制限を設けず、むしろweb上の表現の特質を生かした表現を期待する。


制作時間
45時間


提出物の形式
調査報告レポート:A3またはA4大の冊子(表紙をつけて綴じること)1冊、郵送
リ・デザイン案:webデータ(写真・スケッチ・解説を含む


提出方法
・調査報告書レポートはA3またはA4大の紙にまとめ、簡易製本またはファイリングして綴じたものとする。第4種郵便物の規定に添い、郵送。

・リ・デザイン案はwebデータとしてまとめ、自分の所有する(プロバイダ等の)サーバスペースにデータをアップロードし、そのURLを調査報告書中に明記すること。


出題の意図
本科目では「画像表現」を「研究」していくわけであるが、そもそもその研究対象である「画像表現」とは如何なるものであろうか?その問いに頭をかけ巡らせれば、いろいろな定義のようなものが思い浮かぶかもしれないが、それは個々人で異なっており、皆が共有できる概念、現状の環境世界にまさにリアルに存在しているものとはかけ離れたものであるかもしれない。ここでは、その問いを今一度根源的に追究するところからはじめたい。

身のまわりの生活環境を「画像表現とは何か?」という問いの色眼鏡で見つめ直したときに、どのようなものが見えてくるだろうか?それらを様々な角度から分析したときに浮かび上がる知見が、今後新たな画像表現の可能性を考え、自らが表現を行うときの明確な礎になるであろう。

一般に「画像表現」の特性を考えるときには、その工学技術的特性(例えば、PCのモニタ上の表現であればモニタに画像が映る仕組み、印刷媒体であれば、製版から印刷の工程やその仕組みなど)を中心に論じられることが多い。もちろんそのような特性を理解することは重要であるが、本科目ではそれでだけではなく「画像表現」を、画像を用いて表現を意図する者と、その表現を認識する者との間に成立するコミュニケーションの過程であるというところまで解釈の幅を広げて考える。表現を考える以上、表現を認識・理解・解釈する人間の存在を無視することはできないからである。

課題ではさらに抽出した問題点から改善の提案を行うところまでを目指している。改善案を考えるときにも、常に表現を受ける側の視点を忘れないで考えて欲しい。


制作上の注意点、留意する点

調査報告レポート
[事例の選定]
まず、5つの事例を選定しなければならない。これにはいくつかのヒントを与えておこう。

まずは、1日の自分の生活の中で出会う「画像表現」に目を向けて見ると良い。朝目を覚まして最初に出会う「画像表現」は何か?朝食の時には?家を出て駅へ向かう途中では?電車やバスの中では?職場では?食事の場では?買い物の時は?というように、朝起きてから夜寝るまでの自分の生活の中で出会う「画像表現」をつぶさに観察してみるのもよいだろう。この方法の利点は1日の生活という「時間軸」の中で「画像表現」を捉えることができるという点にある。朝の通勤電車と帰りの通勤電車の中吊り広告はもちろん違うだろうし、朝の街の看板と夜の照明やネオン表現は違う表情を見せているだろう。表現を供給する側として、表現の受け手の生活サイクルに合わせて的確な表現が必要であるということが改めて実感できることと思う。

また別な方法としては、あるテーマを設定して「画像表現」を追ってみるのも良いだろう。例えば「天気予報」はテレビ、新聞、web、i-modeなどの携帯端末上、街角の電光掲示その他様々なメディアで報じられているが、それぞれの表現はそのメディアの特性に合わせてどのような違いが生まれているだろうか?

またはあるシチュエーションを設定して考えてみる方法もある。例えば、「電車の駅」において機能している「画像表現」はどのようなものがあるだろうか?券売機の画面、様々なポスター、路線案内図、料金案内図、次の電車の時刻案内、切符や定期券など、ここでも様々なものが考えられる。このように自らがその切り口となるある「視点」を用意して望むと、事例の選定がしやすい。

[事例の調査]
制作の条件にあげたような観点から、それぞれの事例の調査を行う。特に屋外に設置されたものに関しては、ある日ある時間に1度訪れたきりで分析・考察を行うのではなく、日にちや時間をずらして数回調査をしてみて欲しい。先ほど述べたように1日の時間の推移によってその表現の有用性が変化するものもあるだろうし、ある曜日に最も機能する表現が行われているものもあるかもしれない。

[調査報告レポートとしてのまとめ方]
レポート作成にあたっての注意点は、もはや4年次であるみなさんにここで述べる必要はないと考える。今までの様々な科目で培った知識、技術を総動員してレイアウトやデザインに細心の注意を払い制作してほしい。

リ・デザイン提案
[5つの事例の中から1つを選択する]
ここでは5事例の中から、1つをどのように選択するかが問題となるが、その選択基準はやはり問題点が明確に見えているものを選ぶべきであろう。さらに現実的な視点で明確に改善を行う指針が立つものを選択することも必要である。例えば、電車に乗るための駅の券売機の画面表示に問題があるから、駅で切符を販売するシステム自体を無くしてしまおう、というのはこの課題で求めている改善案として妥当なものではない。現在の改札システム、券売機の販売システム、画面表示システムの中で、より良い改善案を提案できるようであればその事例を選択するべきである。

[改善点のまとめかたについて]
改善点を明確にするときに陥りがちであるのは、確かに以前の問題点は改善されたが、それ以上に別の問題点を浮き彫りにしてしまう結果になる例が多い、ということである。以前よりも問題点が増えるのでは、リ・デザインを行う意味が全くなくなってしまう。ここでも、調査分析を行った項目をもう1度検証してみて、改善後の方がよりメリットが大きい提案にまとめられるよう配慮する必要がある。

[web上でのまとめかたについて]
web上でのまとめかたについても、今さら4年次のみなさんにあれこれ指示する必要はないと考える。ここでは、webブラウザ上で閲覧できること以外の表現技術上の制限は一切設けないので、レポート作成と同様に今までの様々な科目で培った知識、技術を総動員して制作を行って欲しい。単なる1ページのHTMLではなく、webの特性に配慮した表現を心がけることを期待する。


課題制作のための解説
課題制作にあたっては、先にも述べたが現在までに学んだ知識・技術を総動員し、現在の自分のスキル全体を一度確認するつもりで望んでもらいたい。それによって、足りない点や補強が必要な点などが見つかれば、大学在学中にできるだけフォローアップすることが望ましい。面接授業などでも適宜相談に応じるつもりである。


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